豊嶋泰嗣、”対話”が響く40周年のステージ
2026.09.15
アーティストインタビュー

豊嶋泰嗣、”対話”が響く40周年のステージ

PACコンサートマスターの豊嶋泰嗣が、デビュー40周年記念公演に臨む。J.S.バッハ、ベルク、ベートーヴェン――時代も編成も異なる3作を貫くのは“協奏”と“対話”というテーマだ。40年の歩みを重ねた今だからこそ届けたい音楽、そしてこれからの音楽との向き合い方を聞いた。

気づけば40年

豊嶋泰嗣の楽壇デビューは1986年。大学卒業と同時に22歳で新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターに就任し、日本のオーケストラ界をけん引してきた。

「今回のコンサートは40周年と銘打っていますが、感慨深いと言うよりは、気づけば40年という感じです」

PACでは楽団創設時からコンサートマスターを務め、20年以上にわたりPACの音楽を支えてきた。

「最初にPACの構想を伺ったときは、今までにないオーケストラが関西にできるということで、ワクワクしたことを覚えています。初期の頃は特に外国人の奏者も多く、日本の生活に慣れてもらうところから始まって……音楽以外の部分が結構大変でした。でも今はそんな心配もなく、“PACを経験した”というのがオーケストラ奏者としての信頼の証になっているように思います。すごい成果だと思いますよ」

バッハ、ベルク、ベートーヴェン――“対話”のプログラム

40年の節目に選んだのは、J.S.バッハ《ブランデンブルク協奏曲 第5番》、ベルク《室内協奏曲》、ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》の3作。

「PACの仲間とも、普段共演している音楽家とも一緒に演奏したかった。チェンバロの中野振一郎さんは桐朋学園の同級生で、ピアノの上野真さんは芸大(京都市立芸術大学)で何度も共演している素晴らしい方です」

中でも、ベルク《室内協奏曲》は長年温め続けてきた作品だという。

「ずっと“やりたい曲リスト”の上の方にありました。独奏ヴァイオリンとピアノ、13の管楽器による特殊な編成で、オーケストラではなかなか演奏機会の少ない作品です。でもとても魅力的な曲なので、ぜひご紹介したいと思っています」

一方、ベートーヴェン《ヴァイオリン協奏曲》は、「周年の節目にふさわしい王道の作品」として選んだ。実は、この曲を初めて弾いたのは神戸だったという。

「僕が初めてベートーヴェンのコンチェルトを弾いたのが、今の神戸市室内管弦楽団の前身、神戸市室内合奏団だったんです。初めて弾いたベートーヴェンだったので、今でもすごく覚えています」

それぞれ時代も編成も異なる3作だが、そこに共通しているのは“協奏”と“対話”の感覚だ。豊嶋にとって今回の公演は、長年信頼を重ねてきた仲間たちと生み出す、濃密なアンサンブルの場でもある。

© 中倉壮志朗


「音の量ではなく、質」――今だからこそ表現できる音楽を

近年はオーケストラでの活動に加え、室内楽への思いもより強くなっているという。

「仕事というより、自分の音楽的欲求ですね」

若い頃にはヴィオラ奏者として室内楽に熱中した時期もあった。再びその世界に惹かれている理由を、豊嶋はこう語る。

「オーケストラは何百もの音が鳴りますが、弦楽四重奏は最大でも16本の弦しか鳴っていない。それでも、オーケストラに全く遜色のない深い世界を表現できるんです。音の量ではなく、中身や質の問題なんですよね」

さらに、「歳を重ねると音楽の感じ方も変わってくる」と続ける。

「若い頃は大きな音や派手さにも惹かれますけど、今は量が少なくても質のいいものに満足する感覚に近い。ボリュームのあるビッグマックを食べるより、美味しいお蕎麦に感動するような感じでしょうか」

最後に、今回の公演への思いを語った。

「この歳になってしか表現できないものを目指して、今できる一番いい音楽を届けたいと思っています」

《プロフィール》
豊嶋 泰嗣(ヴァイオリン)
Yasushi Toyoshima, Violin

PACコンサートマスター。桐朋学園女子高等学校、桐朋学園で江藤俊哉、アンジェラの両氏に師事。ベルリン放送響、バシュメット&モスクワソロイスツ、ロンドン・モーツァルト管等、国内外のオーケストラと共演。大学卒業と同時に弱冠22才で新日本フィルのコンサートマスター就任。2013年兵庫県文化賞、2019年度第29回青山音楽賞青山賞、令和5年度第42回京都府文化賞功労賞受賞。京都市立芸術大学教授、桐朋学園大学及び大学院非常勤講師。

特別演奏会
豊嶋泰嗣 バッハ!ベルク!ベートーヴェン!

【日時】
2026年10月3日(土)3:00pm開演

【会場】
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

【出演】
ヴァイオリン:豊嶋 泰嗣
指揮:出口 大地
チェンバロ:中野 振一郎
ピアノ:上野 真
フルート:シン・イェジ
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

【曲目】
J. S. バッハ:ブランデンブルク協奏曲 第5番
ベルク:室内協奏曲-ピアノ、ヴァイオリンと13管楽器のための
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

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