第一線で活躍する音楽家から見たPAC ――ペーター・ヴェヒター氏に聞く
PACでは、国内外で活躍する経験豊富なゲスト・プレイヤーを迎え、演奏会での共演やマスタークラスを通じて、若い音楽家たちの育成に取り組んでいます。なかでも毎年夏に開催される「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」は若い音楽家にとって、佐渡裕芸術監督やゲスト・プレイヤーと長期間にわたり舞台を創り上げることができる、PACならではの貴重な機会です。今回は、オペラ公演を中心にPACと共演を重ねてきた、元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団第2ヴァイオリン首席のペーター・ヴェヒター氏に、ゲスト・プレイヤーとして長年関わってきた立場から感じるPACへの思いや、若い音楽家たちへのメッセージを伺いました。
01. PACの第一印象を教えてください。
PACという構想に初めて触れたとき、とても感銘を受けました。
まず感動したのは、コンサートにもオペラにも対応できる、あの素晴らしい大ホールです。そして何より、佐渡裕さんの優れた、そして人を惹きつけるリーダーシップのもと、若い音楽家たちが経験を積みながら成長していくオーケストラであることに、大きな魅力を感じました。
PACの理念を実現し、ここまで築き上げてきたことは、世界の音楽界を見渡しても類を見ない取り組みだと思います。
また、オペラ公演を継続的に経験できることも、若い奏者にとって非常に大きな財産です。通常、彼らが学ぶのは交響曲などの管弦楽作品が中心ですが、オペラでは歌手の声に耳を傾け、自分はもう演奏を始めたいと思っていても、歌手の歌い出しに合わせることを学びます。こうした経験は、音楽家として成長するうえで欠かせないものだと思います。
02. PACメンバーにどのような成長を感じますか。
オーケストラ全体の響きが大きく成長したと感じています。
多くのメンバーは、大規模なオーケストラでは思い切って大きく表現してよいし、そうするべきなのだということを学んできたと思います。もちろん、それはアンサンブルとの調和を保ちながら、という前提です。
楽譜に「f(フォルテ)」と書かれていれば、本当に力強く演奏しなければなりません。弦楽器なら弓を十分に使い、管楽器ならそれにふさわしいエネルギーで吹かなければなりません。
こうした意識は年々向上しているように思います。
03. 音楽と向き合ううえで、大切にしてほしいことは何ですか。
PACのメンバーは技術的に非常に優れています。
だからこそ、作曲家が楽譜に託した意図を、自信を持って、できる限り忠実に表現してほしい。それが何より大切だと私は思っています。そのためには勇気も必要ですし、「これで正しいのだ」という確信も欠かせません。
また、マスタークラスで時折感じたことですが、楽譜に書かれた指示を正確に守るだけでは十分ではありません。和声の変化によって生まれるドラマや、長いフレーズが描く音楽の流れ、あるいは何度も作品と向き合うことで初めて見えてくる音楽の表情や感情の移ろいを感じ取り、それを自分の中で咀嚼し、問い直しながら、演奏に生かしてほしいと思っています。
04. PACメンバーへメッセージをお願いします。
私が深く尊敬する日本の文化や社会を長年見てきた中で、日本では感情や心の動きをあまり表に出さないことが美徳とされているように感じています。しかし、音楽家という職業では、それとは少し違うことが求められます。音楽家はある意味で俳優でもあるのです。
音楽を身体の動きや表情でも表現しなければ、演奏の大切な要素が欠けてしまいます。そうすることで初めて、「私はこの作品を技術的に演奏できるだけでなく、その内容を理解し、心から感じながら演奏しています」ということを聴衆に伝えられるのです。
長年PACと関わる中で、このことを理解し、実践しようとするメンバーが年々増えてきたことを大変嬉しく思っています。皆さんがこれからも音楽家として大きく成長し、素晴らしい成功を収められることを心から願っています。
《プロフィール》
ペーター・ヴェヒター
Peter Wächter
1941年ウィーン生まれ。元ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団第2ヴァイオリン首席。40年にわたり同楽団で活躍する傍ら、室内楽奏者としても国際的に活動。PACではオペラ公演を中心に、ゲスト・プレイヤーとして長年共演している。