【下野竜也インタビュー】他の方がやらない曲担当!?英国音楽の内に秘めた情熱を届けます
PACと何度も共演を重ねPACを熟知するマエストロ・下野竜也が、今シーズンはイギリス音楽プログラムをお届け!今回の聴きどころを伺いました。
——幕開けのウォルトン「スピット・ファイア」の魅力を教えてください。
エルガーの有名な「威風堂々」をさらに華々しくパワーアップさせたような曲で、若いPACにぴったりです。初めて聴く方も理屈抜きにかっこいいと思えるでしょうし、イギリス・プログラムの雰囲気に入り込むにはうってつけです。
PACでは僕は、だいたいのラインナップが決まったあと「何にする?」と聞かれることが多く、他の方がやらない曲担当という自覚があるので(笑)、少し変わったものを入れました。バラエティに富んでいるほうが定期会員のみなさんも楽しいですよね。
——エルガーのヴァイオリン協奏曲では、2018年にPAC定期で共演された三浦文彰さんをソリストに迎えます。
三浦さんとは以前から一緒にエルガーをやりたいねと話していて、今回実現しました。彼、ヴァイオリン協奏曲の中でエルガーが一番好きなのだそうです。オーケストラとのからみが難しく、50分もあって、独奏つきの交響曲のような作品です。印象深いメロディが変化していろいろな場面に現れますが、これはまるで、ヴァイオリンを主人公に艱難辛苦を乗り越え、最後に再びそのメロディが出てきたときは人生の終わりか......というイメージ。
壮大な長編小説を読むように聴くことができるでしょう。三浦さんが素晴らしい演奏家だということは皆さんすでにご存知でしょう。彼ほどオーケストラを大切に弾くソリストはなかなかいません。初めて共演したとき彼はまだ17歳でしたが、すでに大家の雰囲気でした。音楽はしっかりしていて、でも今も普段はやんちゃなお兄ちゃんっぽい雰囲気もあって、そこが良いんですよね(笑)
——あわせて演奏するのは「エニグマ変奏曲」です。
愛妻家だったエルガーが妻への呼びかけをテーマに用いるなど、とても私的な作品です。各変奏の題名がイニシャルで、それが誰を意味するか長年研究されてきました。後世に生きる我々はそれが何かを知って聴くことができます。犬が川に飛び込むところ、いつもブツブツ文句を言っている人、ドアを閉めるのが乱暴な人の描写など、身近な誰かに似ていると感じる場面もあるかもしれません。短編集のようにシンプルに楽しめるでしょう。真ん中で出てくる「ニムロッド」はPAC定期のアンコールで取り上げたことがありますが、あの有名な美しいメロディに出会える瞬間は特別です。
イギリスの男性というと英国紳士のイメージですが、実は中身は熱いですよね。サッカーに熱狂する人の様子は良い例です。表に出し切らない、内に秘めたイギリス音楽ならではの情熱を感じていただけるよう演奏します。会場でお会いしましょう!
インタビュー・文:高坂はる香(音楽ライター)
兵庫芸術文化センター管弦楽団 第141回定期演奏会
下野竜也 ザ・ブリティッシュ!
【日時】2023年5月26日(金)・27日(土)・28日(日)各日3:00pm開演
【会場】兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【曲目】ウォルトン:「スピットファイア」前奏曲とフーガ、エルガー:ヴァイオリン協奏曲、エルガー:エニグマ変奏曲
【出演】指揮:下野 竜也
ヴァイオリン:三浦 文彰
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
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