【アレッサンドロ・ボナート インタビュー】指揮者は、音楽、そしてオーケストラに仕える存在であるべきです
2023.10.24
アーティストインタビュー

【アレッサンドロ・ボナート インタビュー】指揮者は、音楽、そしてオーケストラに仕える存在であるべきです

近年日本でも活躍の場を広げるイタリア出身の俊英、アレッサンドロ・ボナートがPAC定期に初登場!指揮者としての心構えなど、多岐にわたるお話を伺いました。

——指揮者を目指したのはいつのことですか?
私が最初に勉強したのはヴァイオリンで、16歳で指揮を学びました。でも、ヴァイオリンで最初の音を鳴らした瞬間から指揮者になろうと思っていましたね。

——早くから心に決めていたのですね!
はい、でもそれにはまず楽器奏者であることが大切ですから、ヴァイオリンはしっかり学びましたし、バロックのヴィオラもマスターしました。

——後半のプログラムは、オペラのようなストーリー性のある作品ばかりです。
はい、「ボレロ」はオーケストラの能力を示すのに最適な、まるでショーのような作品です。ひとつのテーマで、各奏者が自分の楽器の美しさと能力を示すことができます。
「アルルの女」は、まさに小さなオペラです。2つの組曲は4つの部分に分かれ、何かが起こるごとに気分が転換していきます。
人生では突然予測できない何かが起こり、気分が落ち込んだり高揚したりするものです。音楽もまさにそんなふうに表現されるべきだと思います。フラットではつまらない。感情の起伏をつけて物語を感じてもらわなくてはいけません。
人生も、そんなふうに起伏があるほうがおもしろいですよね。

——ボナートさんの指揮は生き生きとしていますが、それはご自身の経験を音楽に反映させているからなのですね。
ええ、もちろん作曲家がスコアに書いたことをまず尊重しますが、自分というフィルターを通すことで、自然と個性や経験が反映されます。
例えばイタリアのオペラにも、“残念ながら”演奏の伝統が存在します。楽譜には書いていないのに、マリア・カラスがこう歌っていたからそうしないといけない、というような。でも本来、我々は毎回楽譜からスタートし、そこから作曲家が何を望んでいたのかを知らなくてはなりません。
同時に、私たちはアーティストで、音を鳴らす”執行人”ではないのだから、音楽に自分を投影しなくてはいけません。でもそれは、それぞれが自分の人生、視点を持っていれば、自然と個性が反映されて異なるものになるはずです。

——新しいオーケストラとどのようにコンタクトをとるのでしょうか。
まずはリスペクトが大事です。私は、「自分が指揮者だ、全て従ってくれ」というタイプではありません。演奏家への敬意は、相手が何歳だろうと関係なく大切なものです。指揮者はオーケストラのヘッドマネージャーではなく、彼らに仕える存在であるべきです。
クライバーやバーンスタインのようなマエストロは、みんな音楽に敬意を持っていました。自分を音楽の前に出すようなことはありません。私たちの世界では、権力や名誉、お金持ちになることを求めて音楽を利用する人がいますが、それは間違いだと私は思います。音楽には仕えるべきで、利用してはいけません。

——若くしてすでにそのような考えに至ったのはなぜでしょう?
私はとても貧しい家庭で育ち、指揮者になる夢を叶えるため、音楽院の学費を払うために働きました。コペンハーゲンのコンクールで入賞したときも、まだレストランでウエイターをしていましたから。その時の音楽への気持ちを、今も忘れていないというだけです。

インタビュー・文:高坂はる香(音楽ライター)

《プロフィール》
アレッサンドロ・ボナート(指揮)
1995年、イタリア生まれ。2018年、ニコライ・マルコ国際指揮者コンクール第3位受賞で国際的な脚光を浴び、21年、25歳の若さでイタリアのマルキジアーナ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任した。
11歳からヴァイオリンを学び、その後、生地の音楽院で作曲を学ぶ。同時にヴィットリオ・ブレシアーニ、ピエル・カルロ・オリツィオ、ウンベルト・べネデッティ・ミケランジェリ、ドナート・レンツェッティに指揮を学んだ。
16年3月にオマーンのマスカット王立歌劇場でモーツァルト「魔笛」を指揮してプロ・デビュー。19年にはペーザロでロッシーニ没後150年を記念する歌劇「婚約手形」、ヴェローナ歌劇場でプッチーニ「ジャンニ・スキッキ」、チマローザ「秘密の結婚」を指揮。
これまでにスカラ・フィル、RAI国立響、トスカニーニ・フィル、ミラノ・ポメリッジ・ムジカーリ管、トスカーナ・フィル、ジョアッキーノ・ロッシーニ響などのイタリアの主要オーケストラを指揮。20年のペーザロ・ロッシーニ音楽祭では新型コロナウイルスの犠牲者に捧げる、ロッシーニ「小荘厳ミサ曲」を指揮。2022年8月にはマチェラータ・オペラ・フェスティヴァルにロッシーニ「セビリアの理髪師」でデビューした。

 

兵庫芸術文化センター管弦楽団 第146回定期演奏会
ボナート×メイエ 極上のフランス音楽(★は当初発表より変更)
【日時】2023年1117日(金)・18日(土)・19日(日)各日3:00pm開演
【会場】兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【指揮・クラリネット】ポール・メイエ 
【指揮】阿部加奈子(エスケシュのみ) 

    管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
【曲目】ドビュッシー:クラリネットのための第1狂詩曲
    エスケシュ:クラリネットと管弦楽のための協奏曲
    ビゼー:「アルルの女」組曲 第1番・第2番
    ラヴェル:ボレロ
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