テノール・ホルンにマンドリン・・・楽器編成にも注目の大作
2023.01.12
作品紹介

テノール・ホルンにマンドリン・・・楽器編成にも注目の大作

 1月の定期演奏会では、佐渡裕芸術監督がPACとマーラーの交響曲第7番を演奏します。近年、継続してマーラーの交響曲に挑む佐渡芸術監督ですが、これまでこの作品は敬遠してきたといいます。それは「マーラーの交響曲の中で最も複雑で構成感がなく、ドラマ作りが難しいと感じていたから」。しかし今、その「狂気性すら感じる」特別な第7番の世界に、満を持して挑むことになりました。
 マーラーは、作曲家であり優れた指揮者でもありました。オーケストラの統率、派閥や権威をめぐる人間関係にまで神経を使う必要があった当時の指揮者にとって、任務の傍ら創作活動を行うことは簡単ではありませんでした。しかし劇場が休みの夏期に集中して作曲を行うことで、その両立を成功させています。
 交響曲第7番も、やはりそんな夏の間に書かれた作品。オーストリア、ヴェルター湖近くの作曲小屋で、マーラーはこの交響曲の作曲にいそしみました。それは彼が、19歳年下の妻アルマと結婚した数年後のこと。美貌、教養、音楽的才能を兼ね備えた彼女から刺激を受け、しかし同時に その関係に悩むこともありながら、優れた作品を生み出した時代です。1904年の夏、交響曲第6番と「亡き子を偲ぶ歌」を書いたマーラーは、続けて、交響曲第7番の第2楽章、第4楽章となる「夜曲(Nachtmusik)」 を書き上げます(これに由来し、後世でこの交響曲は「夜の歌」と呼ば れるようになりました)。 残る第1楽章、第3楽章、第5楽章は、翌年夏、わずか4週間で書きあげられました。このときについてマーラーは、湖でボートに乗り、オールを漕いだ瞬間に第1楽章の序章主題が思い浮かんだと回想しています。
 また楽器編成も興味深いのがこの作品。テノール・ホルンやマンドリンといった珍しい楽器を積極的に用いることで、マーラーは思い描いた音の世界を現実のものとしました。佐渡芸術監督は、マーラーが滞在したある湖の作曲小屋を訪れたときの思い出について、こう語っています。「例えばここにある美しさの逆の世界とはどんなものか?嵐の湖はどんな光景か?散歩で何に目を留め、何に気がついたのか?マーラーの独特の音の世界観とこの空間は完全に一致すると強く感じました」
 確かに湖といえば、川や海に比べれば水の動きは穏やかなものですが、嵐となれば表情を変えます。本来が静かだからこそ、荒れ狂った時の変貌ぶりは衝撃かもしれません。夏を湖畔で過ごしたマーラーは、ボートからオールで水の感触を 確かめ、また小屋の窓から湖の昼と夜の顔、嵐の時の顔を眺め、どんな感興を得たのか。そしてその表情を、オーケストラでどのように表現したのか。80分にわたる大スケールの音楽を通じ、存分に感じましょう。

文:高坂はる香

 

兵庫芸術文化センター管弦楽団 第138回定期演奏会
佐渡裕 マーラー7番
【日時】2023年1月13日(金)・14日(土)・15日(日)各日3:00pm開演日時
【会場】兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【曲目】マーラー:交響曲 第7番 ホ短調
【出演】指揮・芸術監督:佐渡 裕
    管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
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