井上道義氏よりメッセージが届きました
どうにもならない!身体が、脳が、意欲が全くない!食欲もほぼ無い。グルメではない僕も病院食は努力しても無理過ぎる。体中が吐き気を発する。西宮に這って行って叩き上げでダンサーの事もオケの事も素晴らしく結びつける井田勝大君が練習してくれたPACオケに上手く本番だけ乗ろうという悪魔の囁きさえ今の俺には出来ない相談!!
野人且つ繊細な舞踊家であり演出家の森山開次さんと、彼を尊敬する個性的なダンサー達と兵庫のホールでしか実施できない企画をどんなに楽しみにしてきたか…。古いロシアおとぎ話をつぎはぎで纏めた原作振付台本は、何回見ても意味不明。それを闇と光という対立に置き換えるという森山のアイデアに賛成していた。定期公演としては破格の予算もいただき、森山君たちと俺の自宅で練ったストーリが展開される。そこに龍の目として存在したかった。命はいつか尽きるのだから今回振れるならやってます・・・でも、さっき院内を60m歩いただけで、これは皆の腕と足を引っ張るだけだと知った。
俺とて不摂生してきたわけではない。しかし今年はずっと腰痛が続き、やる気を失うほどの痛みさえあったのでロキソニンをかなり使った。痛み止めはすべて腎臓に副作用をもたらすと、今深く身をもって知った。年寄りの筋肉性神経性腰痛ではなかったのだ。痛み止めへのアレルギーで右の腎臓が静かに膨らみ始めていたのだ。3週間前まで尿路結石の経過は実際良かった(とはいえ石が12個も腎臓に貯めこまれている体質で、一つ終われば一つが続く。手術して取り出すのは感染症で命を落としやすいと言われれば二の足を踏む。)感染症を起こした腎臓は平均の2倍に膨らみ放っておくと人工透析の厄介になるところだった。4倍ほどに肥大している前立腺ももっと早いうちに小さくしておくべきだと言われた。しかし未病に真摯に向き合う医師を僕は一人しか知らない。彼とて「そろそろ身体の状態見せてくれ。」と言わないもんだ。どこか痛くなって駆け込むついでに何かが判るとかだ。当然だ。自分の健康に過大な自信があった。癌にも打ち勝ち10年が経ち、2024年末ぐらいまでは
こんなことにならんだろう、と決め込んでいたし。痛さは半端でなく24時間尿意と同時に叫び、また噛み殺し、毎日発熱を繰り返し、火の鳥カッチェイのアッコードが無限にフラッシュバック、自作の曲や妖精の接吻さえ悪夢のようにエンドレスに鳴る。
僕が13歳の時、テレビで自作自演の火の鳥を振る77歳のストラヴィンスキーを見たことをよく覚えています。「なんて下手くそな指揮ぶりなんだ…そうだよな…歳だし、彼は作曲家なんだから」と母と話し合ったことがある。時の道義は、まだ指揮というものに何も感じないダンサーの卵でちょうど端役で「妖精の接吻」に出ていた。実はこの時代のストラヴィンスキーの曲の方がいい意味で「ハイソで、大人の音楽」だ。
この曲だけでも振れる!と思った強欲じじい…今はパソコンをこれ以上叩く力もない。
「最後の定期演奏会」と御旗を広げての演奏会に指揮が出来なくなるという運命の意地悪ないたずらに井上は牙をむくと同時に、満席でお迎えくださったお客様と関係者の皆には、申し訳ない気持ちでおります。
井上道義