準・メルクル 特別インタビュー
若手時代にタングルウッド音楽祭で佐渡裕芸術監督と共に学び、今や世界の主要オーケストラや歌劇場で活躍する準・メルクルが、PAC定期初登場!今回のプログラムの聴きどころを伺いました。
——どのように選曲されましたか?
チェロ協奏曲の前にふさわしい作品は何かと考えたとき、ドヴォルザークが同じ頃に書いた交響詩「水の精」が合うと思いました。彼がスタイルを確立した最高潮の時期の作品です。美しいメロディと卓越したオーケストレーションを楽しめます。楽器編成が素早く変化することで多様な感情が表現され、悲劇の物語がはっきり感じられるでしょう。
東欧の文化圏では、人間と超自然的な存在が近い関係を持っています。日本でも、自然の中の神や精霊は身近ですよね。自然の全てに神が宿るとする神道や、人間と化け物の間に悲劇が起きる能にも共通します。
——チェロ協奏曲の魅力は?
女性を愛した経験に由来する曲で、温かい感情と情熱が感じられます。この時期の彼の作品は色彩感覚に優れ、特に暖かい色の表現が魅力。木管楽器には多くの部分で中間音域を吹かせていて、それにより美しく混合した響きが生まれます。
現代の楽器では、オーボエなど低音で吹きにくいかもしれませんが、だからこそ暖かく丸い音が実現するのです。ソリストのトマさんは、技術が卓越しているのはもちろん音楽的な方なので、これが難曲だと忘れさせてくれるでしょう。
——「ツァラトゥストラはかく語りき」は、映画「2001年宇宙の旅」で使用された部分で知られていますね。
多くの方がご存知なのは最初の20小節かもしれませんが、その先に本当の魅力があります(笑)。6作目の交響詩で、R.シュトラウスはどうしたら哲学を音楽にできるか考え始めました。ニーチェの物語では、神に近い山頂で太陽の光と暮らすツァラトゥストラが下山し出会う人々に教えを説くなかで話が展開します。シュトラウスが表現したかったのは哲学そのものより、高尚な哲学を持った人が地上で暮らす人と関わり、高めようとすると何が起きるか、理解や誤解、時には抵抗が起きるという現実でしょう。無知や冷たい感情、熱い感情、その切り替わりが音楽で表現されます。
——ニーチェを読んで予習することがお勧めですか?
その必要はありません、読むのは簡単ではないでしょうから(笑)。 冒頭部分が終わると音楽が暗くなり、反対側の世界が描かれる。その変化は、何も知らなくても容易に感じることができます。
——佐渡裕芸術監督とは1987年のタングルウッド音楽祭以来の仲だそうですね。
そうなんです、彼は前向きでエネルギッシュ、人生と音楽を愛している青年でした。パーティでも一番ハッピーそうにしていましたね(笑)。一緒に学び、楽しい時を過ごしました。
——バーンスタインに師事され、最も影響を受けたことは?
バーンスタインから学んだのは、音楽には終わりのない勉強が必要だということです。自らを革新するため、常に広い分野に関心を持つことが音楽を作ります。その意味ではニーチェも読んだほうがいいのですけれど(笑)。ただシュトラウスの音楽は、何かが見えるよう明確に書かれていることが魅力ですので、リラックスして聴きに来ていただけたらと思います!
インタビュー・文:高坂はる香(音楽ライター)
兵庫芸術文化センター管弦楽団 第140回定期演奏会
準・メルクル ドヴォルザーク&シュトラウス
【日時】2023年3月24日(金)・25日(土)・26日(日)各日3:00pm開演
【会場】兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
【曲目】ドヴォルザーク:交響詩「水の精」、ドヴォルザーク:チェロ協奏曲、R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」
【出演】指揮:準・メルクル
チェロ:カミーユ・トマ
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
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