第21回名曲コンサート 宮本文昭さん 特別インタビュー

  これまでフランクフルト放送交響楽団、ケルン放送交響楽団など名だたるオーケストラの首席オーボエ奏者として活躍、日本でもその第一人者として地位を築いてきた宮本文昭。指揮者として新たな道を歩み始めてから3年、いよいよ9月の名曲コンサートでPACオーケストラと初共演を果たします!PACへの期待や今回指揮するブラームス「交響曲第1番」への熱い想いなど、公演への意気込みをたっぷりと語っていただきました。

■ 指揮者というよりひとりの音楽家として生きたい

  オーボエ奏者から指揮者への「転身」とよく言われますが、僕の中では「転身」したという意識は全くありません。確かに「オーボエ吹き」をやめて、いまは指揮を中心に音楽活動をしていますが、それはあくまでもひとりの「音楽家」としての生き方を求めて行った結果なのです。オーボエは吹かないけれど、音楽は続けて行きたい。だから指揮をするという道を選んだ訳です。指揮者としては自分はまったくの新米だと思っています。

■ 弦楽アンサンブルを振りなさいというアドヴァイスを受けて

  指揮を始めるにあたって、指揮の師匠である小澤征爾さんに言われたのは、管楽器と弦楽器では、音楽の始め方がまったく違うということでした。吹けばパッと音の出るオーボエとは違い、弦楽器ではやはり一緒に息をしてからじゃないと、音を出せない。だから、弦楽器のアンサンブルをまず指揮して、経験を積みなさいというアドヴァイスです。
  しかし、管楽器に関しては詳しくても、オーケストラ全体、ましてや弦楽アンサンブルの作品なんて、まったく知らない状態でした。例えばモーツァルトの有名な「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」にしても、チャイコフスキーの「弦楽セレナード」にしても、弦楽器奏者なら何度でも演奏したことのあるような有名曲が僕にとっては初体験の連続。矢部達哉君をコンサートマスターにお願いした「オーケストラ・マップス(MAP'S)」では、指揮者が一番経験がないというような状態で頑張らざるをえません。一緒に音楽を作ってくれるメンバーたちの存在があってこその自分です。
  兵庫芸術文化センター管弦楽団は若い演奏家が多いので、メンバーと一緒に音楽を作って行く過程で、これまでの僕の経験を伝えて行く時間も出来ると思います。幸いにも本番と同じ舞台でリハーサルもするので、ホールの実際の響きを感じながら、細かな仕上げをして行くことが出来そうです。

■ なかなか出来ない贅沢なプログラミング

  今回の演奏プログラムはとても欲張ってみました。と言うのも、冒頭のワーグナーの楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲はオーケストラの編成がとても大きいので、これをやりたいと提案してもたいてい却下されてしまう作品だからです。特別な機会でもない限り演奏されない作品です。でも、以前からぜひ指揮してみたい作品のひとつで、今回ようやくそれが実現するので、わくわくしています。
  西宮出身のヴァイオリニスト松山冴花さんとは初めての共演になりますが、華麗なロマン派時代の作品を2曲、お届けすることになりました。ソリストの音楽的な魅力と共に、オーケストラの個性も発揮出来る作品です。

■ 誰もが共感出来る、分かりやすいブラームス

  そして後半にはブラームスの交響曲第1番。これは僕が10代の頃から聞き込んで来た作品で、最も好きなシンフォニーのひとつです。自分がこれからどう生きて行こうかと悩んでいた10代の時期に、このブラームスの1番はぴったりでした。第1楽章の重く厳かな雰囲気から始まり、第4楽章では明るく肯定的な未来が待っている。そういう点で「暗」から「明」へという、とても分かりやすい構造を持っている作品です。それはひとつの人生のようです。悩み苦しむ第1楽章、のどかな光の見える牧歌的な第2楽章、転換点のような第3楽章を経て、喜びに満ちた第4楽章へ。それはベートーヴェンの9曲の交響曲に続く作品を書きたいというブラームスの意欲、その産みの苦しみも表現しているようで、作曲家の揺れ動く感情を同時体験するような作品でもあるのです。
  だから、悩める若者にも、また未来に希望を持ちたい熟年世代にも、あらゆる世代の人々に勇気を与えるシンフォニーなのではないでしょうか。その感動の瞬間を、多くの聴衆の方々と共有したいと思っています。

文・片桐卓也(音楽ライター)

第21回 名曲コンサート
宮本文昭の「ブラームス1番」
  & 松山冴花の「カルメン幻想曲」
2010年 9月 23日(木・祝)
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